国際政治に関するメモ

勉強するにあたり面白かったものをメモとして残していきます。

G・ジョン・アイケンベリー『戦後秩序の論理と行動』を読んで

 

・はじめに

題記の通り、アイケンベリーの著作(自治医科大教授・鈴木康夫訳)を読みまして、その感想をまとめようと思った次第です。

原書の『After Victory: Institutions, Strategic Restrai, and the Rebuilding of Order after Major Wars』は冷戦が集結してしばらくの時間が経過した2001年に書かれたものであり、訳書である本書は2004年後に出版されています。

 

・簡単な要約

国際社会*1では、各国の行動を拘束する秩序のようなものがあります。

この秩序は、原題にある通り、主要な戦争間にはそれぞれ国際秩序があり、それらは定期的に新しく作り直されています。

文中ではNATO国際連盟などがその例として言及されています。

 本書では、その秩序が生まれるメカニズムを分析し、またそのような秩序が各国の行動に対しどのように影響を与えるか、ということが主要なテーマです。

またそれを分析することで、冷戦後の西側諸国がなぜ勢力均衡的な反応*2を起こさず、冷戦下と同じように協調したのか?という問への回答を試みています。

(例えば、日米同盟やNATOが解消され、各国はアメリカと競争する段階に入るだろうと予測したリアリストがいたらしいです。不勉強なので誰が唱えたのかまでは記憶していません。申し訳なし) 

 

*1 ここでは、地球上にある国で構成される共同体を国際社会と定義します

*2 ナポレオン戦争後のウィーン体制から第一次世界大戦までに見られた、国のパワーに依拠し、同盟システムにもとづいた争いを想定します。

秩序は立憲的な性質を帯びるため、冷戦下の「敵国」が消滅してもその性質のため残り続けると述べています

・なぜ主要な戦争に着目し、またそれらが作り直されるのか?

 アイケンベリーの考える国際秩序は、ナポレオン戦争後のウィーン体制下で出現し、現代に至るまでに何度か作り直され、今に至ると考えます。

 

規模の大きな戦争が起こると、元来存在していた既存秩序は意味をなさなくなり瓦解し、国際社会には各国を縛るものが何もない状態が出現します。それらが作り直されるタイミングが、その「主要な戦争」が起きたときというわけです。

この状態で、戦勝国は戦争前と比べ力を持ち、戦後期には強国となり、そのパワーをどう使うかが問題となります。

 

 

アイケンベリーはこう続けます。「第一の選択は支配すること。強国となった国がそのほかの国を動かし、利益を巡る争いに勝ち続ける。第二の選択は、切り捨てること。強国となった国は、戦後期の紛争から手を引き、本国へ引き上げる。第三の選択は、変容させること。強国となった国がその有利な立場を秩序に変容させることを意味する。…」と述べています。

 

つまり、その無の状態になって、強国が支配・切り捨てを行わなかった場合のみ、秩序が出現するのであり、主要な戦争とその戦後の各国の動向を分析することで、国際秩序の備える性質やその由来が何であるかを理解できるというわけです。

 

・秩序の中身

本書で主に言及されるのは、著者が定義する「立憲型秩序」というものです。

 これは、国同士の合意の上に成り立つ、法的・政治的制度群を中心として組織される秩序とされています。

(≒国のパワーに依拠した力と力による関係ではない)

 国際法には、それを担保・執行する機関が存在せず、例えば国際司法裁判所の判決も拒否することが出来ます。

しかしながら、この立憲型秩序では、強国が自らの行動を制度によって拘束されます。(その強国も、それを承知で秩序を構築します。)

それにより、秩序に参加する国や、戦争で負けて「好き放題されるかもしれない」という不安を抱える敗戦国は安心でき、この秩序に参加します。

こうして初めて、秩序は意味を持ち、効力を発揮します。

 

立憲型秩序は、覇権を得た国をも拘束し、参加する国へ保証を与えます。

(最も力のある国が自国を拘束するのだから、他国の力の行使に対しても保証をするだろう…と考えるというわけですね)

これにより、法を保証し、執行する機関の存在しない国際社会において、安心感と保証が生まれ、各国に秩序に参加するインセンティブが生まれる、というわけです。

 

・所感

国際関係論の分野では、研究対象や主題は様々です。

しかし、その中で戦争の後の秩序に着目し、3つの戦争(ナポレオン戦争、第1次世界大戦、第2次世界大戦)と冷戦後の合計4つのモデルケース*3から秩序の備える特性や性質を導き出す研究はあまりない(と思う)中で、ここまで理論を構築する人はあまりいないのでは、と思います。

 

反面、果たして敗戦国に秩序に参加するインセンティブが生まれたのかどうかの検証が無いように思えます。

各章では、戦勝国となった国の間での交渉ややり取り、方針などは細かく分析されます。

しかし、理論では言及されていた敗戦国の行動に関してはほぼ言及がありません。

 

各戦争の敗戦国

ナポレオン戦争: フランス、第1次世界大戦: ドイツ、オーストリア

第2次世界大戦: ドイツ、日本、イタリア等 冷戦: ソ連

 

実際に、ナポレオン戦争後にフランスは四カ国同盟に加入を果たし、次に「主要な戦争」を起こすのはドイツになりますが、ドイツは第1次世界大戦後に国際連盟を軽んじ再び戦争を起こすことになります。対照的に、第2次世界大戦後の日独伊3国は国際連合に加入したのち、西側の各種の秩序に包摂されます。

更に、冷戦後のロシアはG7への参加など、西側秩序への包摂が見られますが、結果的にそれらを軽視する動きを強めています。

 

これらの敗戦国がどのような動きを見せ、戦勝国の対応の違いや、秩序を軽視するときの状況なども読みたかったのですが、このあたりは書かれていませんでした。

 

ただその個人的な不満を抜きにしても、アメリカ1極支配論や、冷戦後の国際関係論を読み進めるにあたっては、本書はとても有用であると思います。

 

以上

 

*3 本書では、国土の占領や実際の戦争が怒らなかった冷戦も「主要な戦争」をみなし、モデルケースの1つと捉えています。